通信研究会

機関誌 逓信「耀」 インタビュー

2019年3月号 松本正生・埼玉大学経済学部教授・社会調査研究センター長に聞く

参議院選挙制度改革の意義
今夏の参院選の争点、有権者の投票行動――


 (2018年7月に成立した参議院選挙制度に関する公職選挙法の改正について)唯一評価すべきところを挙げるとすれば、合区が広がらなかったことです。定数の不均衡、一票の格差を是正する名目で2016年参院選から合区が導入され、このままではそれが増加していく感じがしたのですが、現状に留まったことは評価できます。残念ながら、今回の制度改革全体に言えることは非常に中途半端で、落第点の評価を下す以外にありません。
 まず選挙区についてですが、一票の格差を是正する名目で、議員1人当たりの有権者数が最大の埼玉選挙区の定数が2つ増えました(改選数1増)。ただ、一方で合区(「鳥取・島根」「徳島・高知」)はそのままの状態になっています。合区というのは定数を削減することによって格差を縮めるという考え方です。かたや、今回の埼玉選挙区については、定数増によって格差を縮めるという対応です。要するに基本的な基準が決まっていないわけです。非常にあいまいで、中途半端な形になってしまっています。
 また、比例代表は4つ(改選数2)増やして、「特定枠」を設けましたが、これは、たとえて言えば、比例代表として掲載される名簿の中に「一軍」と「二軍」が存在するということになります。特定枠(一軍)の人たちは、自分の個人票に関係なく、優先順位が高い。それ以外の二軍の人たちは、自分で個人票を集めて、個人票の多い順に当選する。その個人票が政党の票としてカウントされるので、結局、一軍の選手は二軍の選手の個人票のおかげで当選する形になります。同じ比例代表の中で違う制度が併存することになって、ちょっと問題が多いのではないかという気がしています。
 新しく特定枠が出来たことを、現在どれだけの方がご存知なのかと思いますね。参議院選挙の直前になって「この特定枠って、なんなの?」と、ようやく世の中が気づくのではないでしょうか。